遺品整理の現場で見つけた「父の愛」

写真の裏に綴られていた言葉が泣けてくる
遺品整理という仕事は、
故人の人生の最後の痕跡に触れる仕事です。
部屋に残された一つひとつの品物が、
その人がどう生き、何を大切にしていたかを
静かに語りかけてきます。
今回、遺品整理の現場で実際にあった、
ある父と娘の物語をご紹介します。
憎しみすら抱いていた父の部屋から見つかったのは、
不器用な愛の記録でした。
「全部ゴミだから、早く終わらせてください」
ご依頼者さまは、50代のお母さまと20代の娘さんでした。
事情を伺うと、離婚した元夫が急死し、
住んでいたアパートの保証人になっていたために、
「仕方なく」片付けをすることになったというのです。
故人とは長年疎遠だったのでしょう。
現場には重苦しい空気が漂い、娘さんは
「土足で上がって構いません。全部ゴミですから」
「早く終わらせてください」
と、いかにも面倒だという表情を見せていました。
殺伐とした雰囲気の中で
黙々と部屋の片付けが始まりました。
遺品整理の現場では珍しくない光景です。
故人との関係が複雑であればあるほど、
遺族の感情は冷たくなることがあります。
「早く終わらせて、この場を去りたい」
そんな気持ちが二人の背中から
そっと伝わってくるようでした。
写真の裏に残されていた、父の記録
作業を進めていく中で、
押し入れの中から古びた封筒に
まとめられたものが出てきました。
それは、幼い頃の娘さんの写真の束でした。
笑っている顔
泣いている顔
何かに夢中になっている横顔
どれも、お父さんが撮ったものではないか
と思われます。
その写真を娘さんに手渡しました。

涙とともに変わった娘の表情
最初は怪訝そうな顔で受け取った娘さんでしたが、
1枚、また1枚とめくっていくうちに、
裏面に何か文字が書かれているのに気が付きました。
「きょう、”アブナイ”という言葉を覚えた」
「ニンジンは嫌いだけど、プチトマトは大好き」
「生まれてきてくれて、本当にありがとう」
それは、娘の成長を記録した
お父さんのひとり日記だったかもしれません。
誰に見せるでもなく、ただ自分だけの宝物として、
何年もの間この部屋で大切に保管されていたのです。
娘さんは目に涙を溜め、
その場で言葉を失ったように固まっていました。
そのあと、娘さんから
「どうしようもない父親でした」
「正直、憎んでいました」
「それでも……私が生まれてきたことを喜んでいてくれたんですね」
と、こぼれるように言葉が出ました。
写真を抱えるようにして、
穏やかな表情でお母さんとともに現場をあとにしました。
届かなかった言葉が、遺品を通じて届いた瞬間
生前、父は娘さんに自分の気持を
伝えることができなかった。
離婚という事情があり、
疎遠になった年月があり、
直接「愛してる」と言う機会は
訪れなかったのだと思います。
しかし、写真の裏に一言ずつ書き留めたその記録は、
紛れもなく父親の愛そのものでした。
言葉にできなかった想いが、
何年もの時を経て、
遺品という形で娘さんのもとに届いたのです。
遺品整理の現場では、
こうした場面に出会うことがあります。
私も感極まって、胸がいっぱいになることがあります。
仲違いしたまま亡くなった故人の部屋から、
誰にも見せなかった日記に家族への想いが
切々と綴られていることもあります。
故人はもうこの世にいません。
しかし、遺された古い写真は、
声なき声を代弁してくれることがあるのです。
